人工知能の研究は、期待が高まる「ブーム」と、期待どおりの成果が出ず関心や投資が弱まる「冬の時代」を繰り返してきました。年代とともに、何を実現できるようになり、どこで難しさに直面したのかを見ていきます。
ENIACと汎用コンピュータ
ENIAC(エニアック)は、1946年に公開された初期の汎用電子式コンピュータです。「汎用」とは、一つの決まった用途だけでなく、設定を変えてさまざまな計算に利用できるという意味です。多数の真空管を使う巨大な装置で、人手では時間のかかる計算を高速に行いました。
高速に計算する機械が登場したことで、数値を計算するだけでなく、人間が行う推論や問題解決も機械で実現できるのではないか、という研究につながっていきます。

ダートマス会議と人工知能
1956年、アメリカのダートマス大学で、人工知能をテーマとする研究会が開催されました。ジョン・マッカーシー、マーヴィン・ミンスキーらが中心となったこの研究会は、人工知能が一つの研究分野として発展する節目になりました。
Artificial Intelligenceという名称は、前年の1955年に作成された提案書にも使われています。提案書では、言語を使うこと、概念を形成すること、人間が解いている問題を機械で解くことなどが研究課題として挙げられています。ダートマス研究会の提案書
ロジック・セオリスト
ロジック・セオリストは、アレン・ニューウェルとハーバート・サイモンらが開発した、数学の定理の証明を探す初期の人工知能プログラムです。数値を計算するだけでなく、記号や論理のルールを扱って、結論に至る道筋を探せることを示しました。
「既に分かっている命題に、このルールを使うと何が導けるか」を調べ、証明したい命題へつながる手順を探します。このような探索と推論が、第1次AIブームの中心になります。
第1次AIブーム:探索・推論の時代
1950年代後半から1960年代には、迷路やパズル、定理の証明などをコンピュータで解く研究が進みました。問題を状態と選択肢に分け、可能な手順を順番に調べることで解答を見つけます。
ところが、調べる選択肢が増えると、必要な計算が急増します。また、現実の問題には、あらかじめ決められていない条件や、はっきりしない情報もあります。ルールとゴールを限定した問題での成功を、そのまま現実世界に広げることはできませんでした。期待と実際の能力の差が明らかになり、1970年代には研究への期待が弱まります。
第2次AIブーム:知識の時代
1980年代の中心になったのは、専門家の知識をコンピュータに与えて判断させるエキスパートシステムです。例えば、検査結果と専門的な判断ルールを結び付けて、病気の原因の候補を絞るような仕組みが研究されました。日本では第五世代コンピュータのプロジェクトも進められました。
この方法には、知識を用意する難しさがありました。専門家は経験から判断できても、その根拠をすべて言葉にできるとは限りません。ルールが増えると、例外への対応や矛盾の修正にも手間がかかります。知識を集め、整理し、更新し続ける負担が壁となり、再び期待が落ち着く時期を迎えます。
第3次AIブーム:機械学習と特徴表現学習の時代
2000年代以降、インターネットなどを通じて大量のデータが蓄積され、計算機の処理能力も向上しました。こうした条件を背景に、データから規則や傾向を学ぶ機械学習が広く実用化され、2010年代にはディープラーニングが大きく注目されます。
ディープラーニングでは、判断に役立つ特徴の表し方をデータから学びます。人間が特徴を細かく設計していた処理の一部を、学習に任せられるようになったことが大きな変化でした。
画像認識と囲碁での成果
2012年の画像認識競技会ILSVRCでは、深いニューラルネットワークを使ったAlexNetが高い成績を収めました。大量の画像から特徴を学ぶ方法の有効性を示し、画像認識研究の大きな転換点となりました。
2016年には、DeepMindが開発したAlphaGoが、囲碁のトップ棋士イ・セドルに4勝1敗で勝利しました。AlphaGoは、学習したニューラルネットワークと探索を組み合わせて手を選びます。DeepMindによるAlphaGoの解説
生成AIと大規模言語モデルへの広がり
生成AIは、学習したデータの傾向をもとに、文章や画像などを生成する人工知能です。文章を扱う分野では、大量の文章を学習する大規模言語モデル(LLM)が発展しました。2022年に公開されたChatGPTは、会話形式で利用できるサービスとして、生成AIを広く知るきっかけの一つになりました。
ここまでの歴史は、新しい技術が登場するたびに以前の技術が不要になった、というものではありません。探索、知識表現、機械学習は重なり合って発展し、組み合わせても使われます。ブームごとに中心となった考え方を理解すると、それぞれの技術が何を補おうとしてきたのかが見えてきます。